現当主 星加 勇蔵
YUZO HOSHIKA

 

『 創業時の理念を味とともに守る 』

現当主 4代目星加 勇蔵

現当主 4代目 星加 勇蔵

当店は二代目、三代目、そして四代目の私と、代々の当主が初代勇蔵の名前を襲名しております。襲名と聞きますと、歌舞伎や落語といった芸能の世界のことというイメージが強いのですが、昔は商家、特に伝統の技を継承してものづくりを行う商家でも襲名が行われていました。「名とともに、技と味を継ぐ」という強い決意の表明が襲名なのです。
 
私が勇蔵の名を襲名し、当主となったのは平成3年(1991年)でした。戸籍名の変更は裁判所での申請など、煩雑な手続きが必要です。申請の際、裁判所の方が「代々前例があるのでおそらく許可が出るだろうと思います」と言ってくれました。「代々」の重み、これまで当店をお引き立てくださったお客様と当主への感謝を感じた、忘れられない言葉です。申請から2カ月後に戸籍の変更が許され、勇蔵を襲名。それは、星加の技と味を守る私の日々の幕開けでした。
 
製法や味のほかにも、受け継ぎ、次代へ伝えなければならない大事なことがあります。初代が掲げた創業時の理念です。  「原理原則を守る。儲けよりも信用を。怒らず人を許す心で。何事も腹八分目で。お金は借りない貸さない。」この理念は、当主になる以前からのさまざまな節目において進むべき道を示してくれました。

青年期に体感した商いのやりがい

幼いころから家業を継ぐのは当たり前だと思っていました。少年時代に新聞記者や教師に憧れたりはしましたが、将来像として描いていたのは「星加の当主」になることでした。
 
大学の専門課程に進級する前に1年間休学し、家業を手伝った経験があります。当店が新規事業として新居浜のパン屋を経営することになり、その経営を先代から任されたのです。自転車に餡を積み、西条の当店から新居浜のパン屋まで持って行き、パンの納品に自転車で走り回りました。朝5時から夕方まで働きづめでしたが、お客様が喜んでくださる姿を目にしたり、努力の成果を実感できたりという経験を通して商売のやりがいを感じた1年でした。お客様が喜んでくださる味を懸命に届けるという初心は、今も私の心に息づいています。
 
大学卒業後、正式に当店に入ったのは、今から60余年前。高度成長期の真っただ中でした。日本経済の発展や生活様式の変化を背景に、当店も事業を拡げていきます。これは儲けるためというよりは、当店の技と味を伝え続けるために時代の変化に合った店づくり、味づくりが必要であると考えた先代の「継承のための挑戦」だったのです。
 
先代の念願であった石鎚店(現本社)のオープンに先代とともに取り組めたことは、よい思い出であり、変わらないために変わることを教わる機会でもありました。

時代に合った経営で細く長く続けていく

石鎚店オープン6年後、新たな魅力づくりに挑みます。私の企画立案による洋菓子部門の設立です。まるゆべしに代表される和菓子一筋で歩んでいた当店ですが、菓子を楽しむ暮らしのシーンの変化にともない、新しい魅力づくりが必要だと考えたからでした。
 
洋菓子職人を招き、ドイツ菓子の店「ブランデンブルグ」を開きました。当時は生ケーキ商品も多彩に作っており、洋菓子専門店がまだ珍しかったことも手伝い、大変多くのお客様からお引き立てをいただき、洋菓子部門の最盛期には3つの店舗を展開していました。「ブランデンブルグ」の勢い盛んな時代に、私は襲名のときを迎えました。それまでも、当店の技と味を守るという思いを忘れたことはありませんでしたが、襲名を機にその思いを強くしたのです。
 
当主になって30余年。今、私の心にある思いは、細く長く続けていくということ。お客様を大切に思い、お客様の身になって良い商品を作ること。家業専一に励み、本業以外に手を出さぬこと。そして、時代に合わせた経営をすること、です。
 
これからも、「儲けよりも信用を。」の精神で、手間を惜しまず、愛される菓子づくりに努めます。どうぞ末永くお付き合いいただけましたら幸いです。

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